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03/07/25

自民憲法調査会:自衛隊を正式軍隊とする要綱案を提出

自民党憲法調査会(葉梨信行会長)の憲法改正プロジェクトチーム(谷川和穂座長)は24日、同調査会に対し、安全保障に関する憲法改正要綱案を提出した。自衛隊を正式に軍隊と位置付け、「自衛軍」の保持を明記したほか、集団的自衛権の行使を認めることなどが主な内容。プロジェクトチームは今後、安保以外の分野についても要綱案の検討を進める。
憲法問題については、衆参両院の憲法調査会でも来年末にも報告書を取りまとめる方向で議論している。同党調査会は来年中に憲法全体の改正草案を取りまとめ、国会の論議に反映させたい考えだ。
要綱案は、自衛権について「国家の独立及び安全を守るため、個別的自衛権及び集団的自衛権を有する」としたうえで、「(双方の)自衛権を行使する組織として、自衛軍を保持する」と明記した。政府が現在の憲法で禁止されていると解釈している集団的自衛権行使の容認に踏み込んだ。
また、外部からの武力攻撃など緊急事態が発生した場合、首相は「国家緊急事態」を宣言することが出来ると定めた。その上で「国民に対し、国家の独立と安全を守るために必要な措置を実施するため、命令を発することが出来る」などと、緊急事態における首相の権限を強化した。
「自衛軍」の任務には「国際貢献に係る措置」も盛り込み、国連憲章に基づく国連軍や、国連安全保障理事会の決議に基づく多国籍軍への参加にも含みを持たせた。
軍事規律上の犯罪に関する裁判を行うため、現行憲法で禁じている特別裁判所(軍事法廷)の設置も盛り込んだ。

自民党憲法調査会に提示された安全保障に関する憲法改正要綱案の要旨は次の通り。

第一 国家の防衛
 日本国は国家の独立及び安全を守るため、個別的自衛権及び集団的自衛権を有する。
第二 自衛軍
1 自衛軍の設置
 日本国は自衛権を行使する組織として自衛軍を保持する。
2 自衛軍の任務
 一 自衛軍は自衛権の行使その他国家緊急事態における措置及び国際貢献に係る措置を実施するため出動できる。
 二(略)
3 自衛軍の指揮及び組織・運用
 一 自衛軍の最高指揮権は首相が有する。
4 自衛軍の軍人に関する特例
 一(略)
 二 最高裁判所の下に軍事規律上の犯罪に関する特別の裁判所を設置。
第三 国民の責務
 国民は国家の独立と安全を守る責務を有する。
第四 国家緊急事態
1 国家緊急事態の宣言等
(1) 首相は次に掲げる緊急事態が発生したと認めるときは国家緊急事態を宣言できる。
 一 防衛緊急事態
 二 治安緊急事態
 三 災害緊急事態
(2) 首相が国家緊急事態を宣言するには原則として事前に、緊急の必要がある場合には事後に国会の承認を得なければならない。
(3)(略)
2 国家緊急事態における措置
(1) 防衛緊急事態及び治安緊急事態における措置
 一 首相の権限
 イ 自衛軍に出動を命ずるには原則として事前に、緊急の必要がある場合には事後に国会の承認を得なければならない。
 ロ 国民に対し国家の独立と安全を守るために必要な措置を実施するため命令を発することができる。
 ハ(略)
 二 首相の職務代行に関する特例(略)
 三 国会議員及び国会に関する特例(略)
(2) 災害緊急事態における措置(略)
第五 国際貢献
 国際貢献上必要と認められる場合において自衛軍の軍事力を行使するときは、原則として事前に、緊急の必要がある場合には事後に国会の承認を得なければならない。



03/07/25

自民党憲法調査会、安保分野で改正要綱案 「自衛軍」の保持を明記
集団的自衛権行使も 「緊急事態」首相が出動命令

自民党憲法調査会の憲法改正プロジェクトチーム(谷川和穂座長)は24日、調査会総会に安全保障分野に関する憲法改正要綱案を提出した。自衛隊の位置づけについて、「自衛軍の保持」と明記するとともに、政府が行使は許されないとしてきた集団的自衛権について、保持するとしたうえで行使できるとした。現行憲法に規定がない緊急事態については、首相が「防衛」「治安」「災害」の3つのケースで緊急事態を宣言し、地方自治体や国民に命令できると規定した。
要綱案は現行憲法を大幅に改め欧米の主要先進国並みにするもので、今後、積極的な議論が期待される。
要綱案ではまず、「国家の独立及び安全を守るため」に個別的自衛権と集団的自衛権を有するとしたうえで、これを行使する組織として「自衛軍」の保持を明記した。

自衛軍は、自衛権の行使のほか国家緊急事態、国際貢献にかかわる措置を実施するために出動するとし、自衛軍の規律維持のため最高裁判所の下に特別裁判所(軍事裁判所)を設ける。現行憲法と同様に最高指揮権を首相に与えた。
国民の新たな義務として「国家の独立と安全を守る責務」を打ち出した。
緊急事態への対応については、外部からの武力攻撃による防衛緊急事態▽テロによる大規模騒乱など治安緊急事態▽大規模自然災害など災害緊急事態に際して、首相が「国家緊急事態」を宣言できる。首相は、自衛軍の出動命令や自治体の直接指揮、国民への命令を発する権限を有するが、国会に国家緊急事態の終了の議決権を与えた。
防衛、治安緊急事態下で、国会が開会不能に陥った場合、少数の国会議員からなる「両院合同委員会」が国会機能を代行する。
谷川座長は総会で、自衛隊をめぐる政府の憲法解釈について「説明は限界にきている。(国防とともに)国際貢献にも問題を起こしている」と述べ、憲法九条を中心として改正に着手する必要性を強調した。
≪集団的自衛権≫ 自国と密接な関係にある外国が武力攻撃を受けた場合、自国が直接攻撃されていない場合でも、実力で攻撃を阻止する権利。主権国家として当然の権利(自然権的権利)とされ、国連憲章51条でも加盟国による個別的、集団的自衛権の行使を認めている。しかし、政府は憲法9条との整合性上、「集団的自衛権を有していることは当然だが、自衛権の行使は必要最小限度にとどまるべきで、集団的自衛権を行使することは憲法上許されない」との見解をとっている。

≪西修・駒大教授(憲法学)「タブーに挑戦」評価≫

自民党憲法調査会の安全保障についての要綱案は、全体的にかなり思い切った内容だといえる。「普通の国」の憲法、法律における安全保障の位置づけであれば当然の事柄だが、これまでわが国ではタブーとされてきた部分に挑戦したというのが率直な印象だ。
軍人の基本的人権の制約と、最高裁判所の下への軍事規律上の犯罪に関する特別裁判所設置を盛り込んだことは論議を呼ぶだろう。「国民の責務」として「国家の独立と安全を守る責務を有する」と明記、緊急事態に首相が国民に命令を発することができると定めて、国民の責務と首相の命令権を明確にしたことは今までなかったことだ。
「首相の地方公共団体への直接指揮」を盛り込んだのも、これまでの地方自治の考え方に対する挑戦だ。
ただ、これまで日本が掲げてきた平和主義とのバランスが欠落しているのはいかがだろうか。平和主義に関する考え方を明記しておく必要がある。国際貢献でも、要綱案では人道支援よりも「軍事」が前面に出すぎているのではないか。
この要綱案は、いわばたたき台として提案されたものと思われ、実現には、できる限り多くの政党と国民の支持を得る必要がある。とはいえ、国会の衆参両院に憲法調査会ができて三年半になる中で、最大与党の自民党が一石を投じたことを多としたい。

「拉致」機に国民意識追い風 あえて九条問題提起
衆参両院最終報告での主導権狙う

自民党憲法調査会の安全保障分野に関する憲法改正要綱案には、衆参両院の憲法調査会が平成十六年中にまとめる予定の最終報告作成を自民党が主導するねらいが込められている。思い切った内容を提示することで、足踏み状態の民主党などの他党の改憲論議を促す思惑もあるようだ。ただ、政界全体では議論の盛り上がりに欠ける面も否定できず、今後はいかに関心を高めていくかが課題だ。
調査会のプロジェクトチームは今後、一年程度をかけて、安全保障分野以外の天皇、基本的人権、統治機構、司法、地方自治、前文などをめぐる改正要綱の策定作業を続ける。衆参両院の憲法調査会が来年中にまとめる最終報告に向けて、自民党案を提示し、各党に問題提起していく構えだ。
調査会には当初、戦後長く与野党対決のテーマだった「憲法九条」に触れることを避け、環境権に代表される新しい権利など、理解されやすいテーマから着手すべきだとの議論もあった。
しかし、北朝鮮問題などをきっかけに、国民の安全保障意識が現実化してきたことを踏まえ、まず最初に、「憲法改正の最大の争点」(谷川氏)である安全保障分野の問題提起を行うことにした。
ただ、衆院解散が一年以内に迫っているにもかかわらず、国会や各党の憲法論議は盛り上がっていない。総裁選を九月にひかえた自民党内ですら「全党的な論議には至っていない」(調査会幹部)のが現状。要綱案の公表が、どこまで議論に火を付けるかは未知数だ。





 
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