北朝鮮拉致事件――国内左翼の論調を読む



北朝鮮の拉致問題を考える上で、日本国内左翼の言動を分析することは喫緊の課題である。何故なら、反日左翼の一部は北朝鮮の非合法的作戦を実際に「担って」いたのであり、そして、大多数の左翼は「従軍慰安婦」「強制連行」問題などのプロパガンダを日本国内で実施することにより北朝鮮を道義的に「擁護」し続けてきたからである。

まず第一に、「よど号グループ」である。現在、北朝鮮に残っているよど号犯は、小西隆裕(五八)、若林盛亮(五五)、赤木志郎(五四)、安部公博(五四)の四人。安部公博については、九月二五日、有本恵子さんに対する結婚目的誘拐容疑で逮捕状が出た。「産経」九月二十六日付夕刊は次のように伝えている。
「よど号犯は北朝鮮からたびたび出国。小西、若林両容疑者は昭和五十八年八月、リビア・トリポリで開催された『全アフリカ青年フェスティバル』に参加したとみられる。ここで当時、中東を拠点にしていた思想的に同じ流れをくむ日本赤軍メンバーらと接触した疑いがあり、非公然活動で日本赤軍との連携を模索したとみられる。また、日本に帰国後、逮捕された田中義三被告(五四)=国外移送目的略取罪などで公判中=は、東南アジアを中心に活動。北朝鮮の外交官と一緒に行動していたことが確認されている」。
「よど号犯が北朝鮮をたびたび出国していた昭和五十年代は、金正日総書記が対韓国工作を担当しており、公安当局は、安部容疑者らのこの時期の行動の背景には、金総書記の意向が働いていたとみている」。

日朝会談を受けて、「かりの会」というよど号犯のホームページは声明を発表した。
「今回の日朝首脳会談において、朝鮮民主主義人民共和国の日本人への拉致が明らかになったことは、私たちにとって大きな驚きであり、非常に残念で遺憾なことでした」。
「『かりの会』成員の金子恵美子の公判廷で八尾恵さんは、有本恵子さんの拉致実行を自ら認める証言を行いましたが、私たちには信じがたいことです」。
「私たちは、こうした事件が、日朝の非正常な関係のなかから生まれたこととはいえ、二度とあってはならない問題として、多くの方々の犠牲を無駄にしないためにも、日朝が敵対関係から協力関係へ、さらには親善友好関係へ発展するよう微力を尽くしていく所存であります」(九月二十一日)
何とも白々しく、弱々しいコメントであるが、これを決定的に否定する発言が彼等の身内から飛び出してしまった。「東京新聞」十月六日付は次のように伝えている。

「北朝鮮から死亡と伝えられた札幌市出身の石岡亨さんについて、よど号事件で国際手配中の小西隆裕容疑者らが一九九六年ごろ、塩見孝也・元赤軍派議長に『仲間にしようと説得したが手に負えなかった。(その後)手の届かない所に行った』と話ていたことが五日、分かった」
塩見は「痛恨の呼びかけ」を月刊『創』十一月号で述べている。「いま『よど号』グループは非常に厳しい局面に立たされている。彼らはどんなことがあっても『拉致など身に覚えがない』と言い通す道を選んだようだ」。
「安部公博に逮捕状が出たことを受けた赤木志郎の発言を見ると、北朝鮮が自分たちを見放すことはないと大見栄を切っている。それは何故かというと、もともと彼らの行動は金正日総書記と密接な運携のもとにやられたもので、その点では、互いに運命共同体的な性格もある。だから彼らを下手に切り捨てると、金正日さんの権威にまで波及する。ある程度まで防衛しようとするだろう――恐らくそういう思いが『よど号』グループの最後の拠りどころなのではないか」。
「僕は正直言って、朝鮮労働党に対しては頭にきている。勝手にいろいろ利用しておいて、最後にはポイ捨てではたまらない」。
塩見孝也は最も近しい同志であった。「よど号グループ」が同胞を拉致し北朝鮮に売り渡すという凶悪な犯罪を行なったことは明らかである。にもかかわらず、「かりの会」は未だ空しくも白々しい言葉を吐き続けている。
「共和国政府が『拉致』事実を認め、拉致被害者の存在と安否が明らかになりました。『拉致はない』と信じていただけに、私たちも大きな驚きと悲しみ、そして衝撃を受けました。被害者の方々や家族の方々のその悲痛な気持ちを考えると、なんといってよいか言葉もありません」(十月十六日)



日本国内で北朝鮮の手先として活動しているのは「自主の会」「チュチェ思想研究会」「朝鮮総連」などである。総連の機関誌「朝鮮新報」は、日本国内の反日左翼運動を実に詳しく報道し続けている。少し見てみよう。
「日朝日韓民衆連帯八月行動の集会とデモが八月二十九日、大阪府の日本市民約六百人が参加のもと行われた。馬場徳夫代表委員があいさつした」(九月十一日号)。

「朝鮮戦争時の米軍による細菌戦の実態を調査するため、朝鮮と中国東北部を訪れた『調査団』の森正孝さん」(九月十一日号)
「『従軍慰安婦』の取材を地道に行ってきた伊藤孝司氏の講演」(九月四日号)「訪朝している日本『ピース・ボート』代表団(団長=吉岡達也)メンバーと、平壌市内の勤労者、芸能人との友好交歓会が十九日、行われた」(八月二十三日号)「『子どもと教科書全国ネット二十一』の俵義文事務局長は、愛媛県教育委員会が『つくる会』の歴史教科書の採用を決めた十五日、抗議文を発表した」(八月二十一
日号)

「植民地支配時、日本政府の国策によって性奴隷生活を強いられた女性に国家としての謝罪と補償を促す法案が第一五四回国会で審議入りし、継続審議が決まった。法案提案者は吉川春子参院議員(共産)、岡崎トミ子参院議員(民主)など」。
「一方、七月五日には衆議院議院運営委員会で継続審議となっていた『国立国会図書館法の一部を改正する法律案』の質疑が初めて行われ(非公開)、継続審議が決まった。二〇〇〇年十月に鳩山由紀夫、土井たか子、不破哲三、田中甲氏ら六人の議員が提出。百六十人を超える超党派の国会議員が賛同者として名を連ねている」(八月十四日号)。
「二〇〇〇年十二月、『日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷』が東京で開かれ、『昭和天皇有罪、日本に国家責任』という歴史的な判決が下された」(七月二十九日号)「日朝国交促進国民協会副会長の三木睦子さんに七日、朝鮮民主主義人民共和国親善勲章第一級が授与された。日本の女性では、田中寿美子さん、山下正子さん、清水澄子さんに次いで四人目」(六月十七日号)「『日本の過去の清算を求める平壌国際シンポ』団長の土屋公献・元日弁連会長、副団長の大島孝一・戦後補償実現市民基金代表、石毛^子衆院議員(民主党)、有光健・戦後補償ネット世話人代表は十七日、外務省を訪れ抗議を伝達した」(五月二十二日号)「チュチェ思想研究会全国連絡会(会長=佐久川政一・沖縄大学教授)、朝鮮の自主的平和統一を支持する長野県民会議(清水勇会長)の両団体が主催する金日成主席誕生90周年祝賀集会が二十日、行われた。集会には、山口わか子衆院議員、浜万亀彦・長野県議会日朝友好促進議員連盟会長をはじめ二百五十人が参加した」(四月二十六日号)。「『朝鮮総連に対する過剰捜査真相究明委員会』(共同代表=槙枝元文)が主催した集会が六日、衆議院第一議員会館で行われた。集会では前田朗・東京造形大学教授、北川広和・『日韓分析』編集長、清水澄子・朝鮮女性と連帯する日本婦人連絡会代表がそれぞれ報告を行った」(三月十三日)

北朝鮮への協力者たちのオンパレードである。最後に出ている北川広和は社民党の機関誌に「拉致はなかった」という文章を書いた人物である。この朝鮮総連が今回の「日朝会談」に驚愕して自己批判らしきものを発表した。「歴史的文書」として記録しておこう。
「十七日、平壌で行われた朝・日首脳会談の席上、金正日総書記は小泉首相に対し、拉致問題について特別委員会を作って調査した結果、事実であったことを認めました。そして、『遺憾なことであり、率直にお詫びしたい』と述べ、事件に関連した人々は『処罰』したとも語りました。
拉致問題については、本紙紙上でも労働新聞、朝鮮中央通信などの『事実無根』『でっち上げ』などの見解に沿って、たびたび取り上げてきました。しかし、総書記が拉致事件を認めたことによって、本紙紙上で取り上げてきた報道、論調そのものが過ち、誤報であったことが明らかになりました。 これまで読者のみなさんに誤った事実を伝え、そのことによって言葉では言い表せないご迷惑を与えたことについて、率直に反省しております。いくら祖国の報道を信じ、それに依拠してきたとはいえ、先入観に基づいて展開した編集部独自の検証記事などは、ジャーナリストにとってはあるまじき行為だったというほかはありません。
拉致事件は、かつての朝・日間の不正常な関係のもとで起きたまことに遺憾なものであります。今後、こうした事件が二度と起きないよう、徹底した防止策が講じられるよう求めたいと思います。また、今回の事件から教訓を汲み取るとともに、朝・日国交正常化の一日も早い実現と親善・友好関係の樹立に向けて、編集部一同、全力を傾けていく決意でいます」(「朝鮮新報」九月二十七日号)。
朝鮮総連の自己崩壊が始まったのであろうか。今後の推移に注目したい。問題は、北朝鮮に協力する日本人左翼である。



新左翼各派の論調を見てみよう。新左翼は基本的に「反帝、反スタ」であり北朝鮮をスターリニスト国家と規定しているから、今回の拉致問題では「北朝鮮スターリン主義の反労働者性・反人民性は徹底して弾劾されねばならない」(革労協「解放」十月一日号)という声が多い。革マル派は「『社会主義』を掲げる国家のこの行為は勃興期朝鮮革命運動のインターナショナルな伝統に泥を塗るものである」(「解放」十月七日号)という。
本当の共産主義者は「こんなことはしない」と言うのであるが、批判している日本の新左翼を含めて共産主義者は「こんなこと」ばかりやってきたのではないか。粛正とか内ゲバとか査問とか、拉致・リンチ・拷問・処刑こそが共産主義者の歴史ではないのか。「反革命」を諸君らはどれだけ殺してきたのだ。北朝鮮は共産主義者として、特別「変わったこと」をしたわけではないのである。

そして新左翼各派は、平壌宣言で北朝鮮が「日帝」に「全面的譲歩」「裏切り」「屈服」したと理解しているようだ。
ブント全国委員会。「日朝平壌宣言は、完全に日帝の意向にそったものであり、朝鮮民主主義人民共和国(共和国)の全面的譲歩を特徴とするものとなった」。「日朝間の国交樹立の条件が日韓基本条約を踏襲する経済協力方式であることは徹底して弾劾されねばならない」(「烽火」十月一日号)
中核派。「平壌宣言は、日帝の側は、植民地支配についての謝罪や補償を行わない一方、日帝が北朝鮮に要求していることはすべて認めさせ、全面屈服させた文書となっている」(「前進」九月三十日号)
革マル派はさらに鋭い分析を行なっている。「(北朝鮮は)対日賠償請求も全面的に放棄した。『金日成将軍の抗日パルチザンの歴史』を理由に“朝鮮は戦勝国でである”として日本に賠償を請求してきた北朝鮮政府。賠償請求権を放棄した韓国政府を『民族の利益を売り渡した』と罵ってきた彼らが、国家成立の歴史にまつわる賠償請求を放棄した。北朝鮮の建国神話をみずから否定するに等しい譲歩をおこなったのだ」(「解放」九月三十日号)
その通り。日本は合法的に「日韓合邦」を行なったのであり、大東亜戦争の末期には朝鮮・台湾出身者を含む全ての日本人が等しく「徴用」を受けた。「国家的人さらい」をやったわけではないのだ。また金日成は抗日パルチザンの英雄ではなく、ソ連軍の傀儡軍人として北朝鮮に進駐してきたにすぎない。この事実は、最近になってロシアも認めている。
「朝鮮半島での共産主義政権樹立工作に直接関与した旧ソ連軍政治将校が三日までに、共同通信に対し、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の故金日成主席について、卓抜した資質を持ち北朝鮮の指導者にふさわしいと、当時のソ連上層部に推挙したと証言した」(「共同」平成十三年八月三日)。
北朝鮮が「賠償請求を放棄した」のは、歴史的にも国際法的にも当然の帰結なのである。しかし、当事者である北朝鮮が「放棄」しているものを何故、日本の新左翼が弾劾するのか。すなわち、新左翼にとっては「日帝糾弾の材料」が無くなることが許せないのである。
そもそも、「うそつき国家」のプロパガンダ、「人さらい国家」の詭弁としての「強制連行」「従軍慰安婦」論は、今回の金正日の自白によって根底から崩壊したと見なければならない。日本の新左翼はそのことに恐怖しているのである。
また、新左翼各派は珍妙にして荒唐無稽なアジテーションを行なっている。

中核派。「9・17小泉訪朝は、米日帝の朝鮮侵略戦争計画の流れの一環である。戦う朝鮮人民・在日朝鮮人民と連帯して、日帝のアジア侵略を内乱に転化せよ」((前進」九月三十日号)。

ブント全国委員会。「共和国に対する帝国主義の戦争策動・再侵略策動と対決し、日朝プロレタリアートの新たな国際的団結の形成を勝ち取っていこう」(「烽火」十月一日号)

革労協。「労働者人民を支配する北朝鮮スターリン主義国家を解体・止揚し、コンミューン共産主義の大道を歩もう」(「解放」十月一日号)。
平和・平等・反戦・解放・地上の楽園などの甘い言葉で純情な人々を騙し、奴隷的独裁国家を作って陰謀的な殺戮と非道の限りを尽してきたのが北朝鮮であり、そのミニチュアが日本の新左翼「革命的暴力闘争」の歴史ではなかったのか。



最後に「革命的思考」について指摘しておこう。「革命家」は漸進的な問題の解決を嘲笑する。すなわち、「世界プロレタリア暴力革命」を決断し実行しないものは「改良主義」「日和見主義」「反革命」と決めつけて粛正するのである。日本の新左翼などは「日帝打倒」の戦いよりも内ゲバに熱心であった。
己の「思想」が即実現することなど世の中にそう有り得るものではない。「思想」を実現させるために何をなすべきか。それが「政治」であり「戦略」であろう。
「革命的思考」は、思想を「即実現」しようとしないものは「味方」ではなく「敵」と規定する。こうして果てしなく「内ゲバ」が拡大し、そもそもの「目的」は実現しないのである。言ってみれば、お菓子を買ってもらえない駄々っ子のごとき「思考」である。
こうした「思考」は「革命的左翼」などを卒業し「保守」の立場に移行した人々にも時として見られる。元全学連の幹部であった人が自らのホームページで拉致問題に関して「革命的思考」を展開しているので紹介しておこう。保守派の論客なので本人の名誉のために特に名を秘す。
この元全学連幹部は概略次のように述べた。
「北朝鮮が崩壊するまで、日本政府は北朝鮮といかなる交渉もすべきではない。北朝鮮に拉致された人は、どっちにしても戻ってこないのだ。しばらくは我慢して、北朝鮮政権の崩壊を待つのが一番の得策である」ここには、拉致被害者を如何にして救出するか、北朝鮮を如何にして変質させるのかという方法論が全く欠如している。さらにこの人物は、拉致された被害者は「どっちみち戻ってこない」などという敗北主義者でもあった。ところが、予想に反して五人の拉致被害者が帰国するや彼は次のようなことを述べた。
「今回一時帰国を許された五人は、すでに意志堅固な『工作員』に仕立てあげられている可能性が高い。『可哀相な被害者』のままではないのだ。喩えは悪いが、敵方のサイボーグにされていると疑った方がいい」

さすがは元全学連幹部である。同胞に対する一片の同情も惻隠の情も持ち合わせてはいない。しかし、マインドコントロールが解けていないのは拉致被害者の方々ではなく、この元全学連幹部の「革命的思考」なのである。
さらに、「革命的思考」といえば自称「日本右翼の代表」一水会である。一水会は日本を守るためには「反米でなければならない」と考えた。そして「反米」のためには、「反米国家」の北朝鮮と連携しなければならないと主張した。平成十一年の「九・二集会」では赤軍派塩見グループと共闘し「左右の垣根を取り払う真民族派の輩出を!」と訴えた。
一水会顧問の鈴木邦男は「レコンキスタ」平成十三年十月号で「『よど号』の人達は皆、民族派になった。僕よりも強固な民族主義者だ。『明治維新の志士に学んで下さい』と田中義三さんからは言われている。いい人だ」と述べ、田中の裁判に出廷して「こんなに立派な人を長く獄中におくなんて国家の損失だ」と訴えた。
さらに「レコン」平成十四年三月号で鈴木は「(田中さんは)北朝鮮の人々の強烈な民族主義に触れ、『民族主義に基づいた変革』でなければダメだと痛感した」
「(田中さんは)『この国を愛し、、民族主義を基盤とする限り、右も左もない。ともに闘える』と言ってくれた。そして『一水会訪朝団』を組織し、木村、見沢氏らが行き、意気投合した」と正直に書いている。
安倍晋三官房副長官は日本人拉致の実行犯であるシン・グァンスら十九人の「政治犯」釈放を求めた嘆願書に署名した土井たか子や菅直人らを「間抜け」と批判したが、拉致実行犯(の仲間)をここまで褒め称え意気投合している一水会をなんと形容すればよいのか。
しかるに、一水会の荒木雅弘書記長は「レコン」平成十四年十月号で驚くべきことを書いている。「金正日が日本人の拉致を認め、謝罪したからと言って…我々は北朝鮮を信頼することはできない」。この書記長は一水会が北朝鮮の手先「よど号グループ」と意気投合していることを知らないのであろうか。
同じ「レコン」で木村三浩はさらに驚くべきことを書いている。「(訪朝したときに)田宮(高麿)氏と実はこんな話をしました。『革命運動に必要な要素は四つくらいあるのではないか』。これは鈴木さんの受け売りです。『一つは理論。二つ目は組織。三つ目は資金。四つ目は女だ』と。すると田宮氏は『全くそのとおりだ』と。
『実はその女を獲得しなければ』。そう言ったんです。鈴木さんが言ったことはやっぱり間違いじゃなかったなぁ」。
このお話が本当だとすると、実は一水会は「間抜けな右翼」ではなく、北朝鮮の工作機関かもしれない。




 
inserted by FC2 system