参考資料

「ニューズウィーク日本版」02/06/19

忍び寄る「超タカ派総理」の影
石原都知事は日本再生の「救世主」か危険な排外主義者か
     ジョージ・ウェアフリッツ(東京支局長)・高山秀子、糸井恵(東京)

複式簿記の原則を話題にして、笑いを取るのは至難の業だ。だが最近、石原慎太郎東京都知事はそれをやってのけた。定例記者会見で、国が採用している会計方式である単式簿記方式をやめ、複式簿記方式に改めると宣言したときのことだ。
「国がなんて言うか知りませんけど、国が変えりゃいいんです。東京都はやります。でも、こういうことを始めると」と言って、石原は含み笑いを顔に浮かべた。
「あと1期どころか、2期くらいやらないとしょうがないけど」どこが面白いのかピンとこない人も多いだろうが、この発言は記者団の笑いを誘った。最近の記者団の関心は、石原が来年の都知事選で再選をめざすのか、またはさらに「上のポスト」をねらうのかという点に集まっていたからだ。
石原は日本でとりわけ人気の高い政治家であり、ベストセラー作家であり、アジア諸国の嫌われ者でもある。さらに、支持率が低下している小泉純一郎首相の後継候補とも目されている。
実際、ここ数カ月間の石原は、臨戦態勢に入っている。小泉の言動に対する批判は辛辣さを増し、自民党保守派の実力者とも会食を重ねている。だが、本誌のインタビュー(26ページ)ではこれまで同様、国政に復帰して首相の座をねらう可能性について、肯定も否定もしなかった。
「半年前なら可能性は1割だったが、現在は3割だ」と、コロンビア大学のジェラルド・カーティスは言う。「石原の参戦は、これまでになく現実的になっている」むしろ、「超現実的」と言ったほうがいいだろう。石原は知事の責務に縛られる様子もなく、その立場を利用して都とは無関係な問題にまで口をはさんでいる。今年4月には、昨年末に沈没した北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の不審船を引き揚げないなら、小泉政権を「倒す」と脅した。

自民党政権打倒も可能

石原は5月にも、文部科学省による学校週5日制の推進を「愚劣」と一喝。サッカー日本代表のフィリップ・トルシエ監督についても、「選手を心理的にいじめて」いるとしたうえで「あれは2流の監督だと思う。白人の悪いところかな」と批判した。
5月17日の記者会見では、中国・瀋陽の日本総領事館で起きた北朝鮮脱出一家5人の強制連行事件について、日本の外交官は「腰抜け」だとかみついた。
だが石原は、ただの「大口をたたく厄介者」ではない。過去の戦争に対する認識や、在日外国人や中国に対する極端な発言にもかかわらず、大勢の有権者は彼の都知事としての手腕を評価している。
石原は本誌に対して、(日本が領有権を主張する)尖閣諸島を中国の侵略から守り、北朝鮮が拉致したとされる日本人を解放しない場合には、同国に宣戦布告すべきだと語った。
民主党の若手議員である安住淳は、石原は日本の「アナクロニズムの代表者」だ、と言う。「国民の欲求不満をうまくとらえ、どう話したら受けがよいかを知っている」が、改革を実現する忍耐力と政治的手腕に欠ける「危険な発想をもった政治家だ」と。
とはいえ、石原の批判勢力は当面、安心していられる。石原が首相になるには、1年前に小泉政権が誕生したときをはるかにしのぐ政界再編が不可欠だからだ。
まず新党を結成して、衆議院議員に返り咲き、連立政権を組んで自民党長期政権を倒さなければならない。だが一見不可能に思えるものの、あながちありえない話でもない。 ここ数カ月間、以前は活発な動きを見せていた自民党の若手議員グループはすっかり鳴りを潜めている。そのなかで、「石原を国政に戻して自民党と手を組ませるという動きがある」と、政治評論家の福岡政行は言う。「石原が立ち上がれば、民主党から20〜30人は離れるかもしれない」国外からは、このシナリオは最悪とは言わないまでも、「政情不安定」と映るだろう。なにしろ、石原は中国と北朝鮮に強硬姿勢を取り、防衛力増強と核兵器開発に向けた体制づくりに賛成しているのだから。
2年前には中国の江沢民(チアン・ツォーミン)国家主席に対し、台湾を併合するため人民解放軍を動かせば、「中国のヒトラー」とみなすと警告。中国の国営メディアは、石原を「中国人民の敵」と宣言した。
それでも石原は、日米両国で「中国の拡大主義を封じ込め」、日本は対中経済援助を即刻停止すべきだと、本誌のインタビューで語っている。

改革断行で株が上がる

石原の排外的な言動は、フランスの極右政党、国民戦線のジャンマリー・ルペン党首を思い起こさせる。だが見落とされがちなのは、日本人の多くが、極端な意見の持ち主「ゆえに」石原を支持しているわけではなく、「それでもなお」石原を支持している点だ。 「歴史認識には完全に賛成できないけれど、自分の意見をはっきり発言できる政治家だと思う」と、東京に住む主婦(55)は言う。確かに多くの日本人は、石原がイタリアのシルビオ・ベルルスコーニ首相のように長期政権を倒し、国政を再生させることを望んでいる。
メディア王であるベルルスコーニ同様、石原も多くの政治家が知らない世界に通じている。都知事を務めながら、本業の文筆活動も精力的に行ってきた。最新の小説『僕は結婚しない』の主人公は、女好きだが独身を通している30代半ばの男性建築家。このエロチックな物語には、デビュー作『太陽の季節』(1955年)に共通するテーマを感じさせる。
『太陽の季節』では、裕福な大学生が酒と女遊びに興じながら、自由の限りを尽くす。石原も執筆活動の合間に世界を旅行し、ヨットレースに参加した。弟は国民的な人気俳優だった石原裕次郎だ。戦後の文壇にセンセーションを起こした右翼の小説家、三島由紀夫とも親交があった。
政治家としての石原は、三島よりは穏健だった。ベトナムを訪問し、共産主義が大きな脅威になると確信した石原は68年、参議院選に出馬。トップ当選した後、自衛隊の拡充や日本国憲法改正などの問題に力を注いだ。
89年に出版された盛田昭夫ソニー会長(当時)との共著『「NO(ノー)」と言える日本』では、アメリカへの怒りをあらわにした。日本にはもう米軍の保護は必要ない、今こそアメリカの支配に抵抗すべきだと主張した。
石原は首相になるという野望をいだいていたが、89年の自民党総裁選では海部俊樹と林義郎に敗退。95年に国会議員を辞職し、再び作家としての生活を送りはじめた。


小泉政権内部にほころび

しかし、それも長続きはしなかった。99年に石原は東京都知事選に立候補、都政改革と財政再建を公約に掲げて圧勝した。知事就任後は、すぐに予算削減に着手し、局長級幹部の半数近くを退職させて若返り人事を推し進めた。そうした改革の断行で、石原は実行力のある都の「最高責任者」とみられるようになった。
都知事というポストを通じて、石原は「影の首相」のように振る舞えるようになった。国の政策に多くみられる自民党主導の折衷案に反する施策を次々と打ち出した。
ディーゼル車の排ガス規制や外形標準課税のほか、カジノを合法化したいとも明言している。
国民が政府への失望をつのらせるなか、石原は無能な政治家を批判できる立場にあると気づいたようだ。昨年1月の世界経済フォーラム年次総会では、当時首相だった森喜朗の演説に幻滅し、夕食会の席で「彼は辞めるべきだ」と語ったという。石原の言葉どおり、2カ月もたたないうちに森は辞任、「改革者」を名乗る小泉純一郎が頭した。
石原のような明快さや実行力を意識した小泉は、「聖域なき」改革を断行し、ばらまき政治を払拭すると国民に約束した。就任当初にはカルト的ともいえる人気を集め、内閣支持率は80%を超えた。
だが小泉が今年1月、人気はあるが歯に衣を着せない田中真紀子外相を更迭したことを機に、自民党の若い改革派内に亀裂が生じるようになった。

大統領にもなれる人材

自民党の次世代指導者と目されていた「YKK」トリオも崩壊した。「K」の1人、加藤紘一は次期首相の有力候補とみられたこともあったが、政治献金流用疑惑などが浮上し、議員を辞職した。「Y」の山崎拓自民党幹事長も今年4月、愛人だったと名乗る女性とのスキャンダルが週刊誌に掲載され、批判にさらされている。
党内の対立やスキャンダルで、小泉政権は「弱体化し、場当たり的になった」と、ある政治アナリストは指摘する。小泉は最近、親しい顧問以外とは距離をおいているらしい。ストレスによる不眠症を酒で紛らわせ、「ひどい顔色だ」と、このアナリストは言う。
彼の話では、最近開かれたある夕食会で、小泉は自分の側近の誰が「暗殺者」になる可能性があるか思案した末、こう尋ねたという。「ユダになるのは誰だ?」東京大学の猪口孝教授は、小泉か主要閣僚の誰かが政治的な失策を犯せば、解散総選挙を迫られる可能性もあるとみている。
石原は「そのとき」にそなえているという専門家もいる。「今やポピュリストの時代になった」と、猪口は言う。「候補者は現体制と闘う姿勢を打ち出さなければならない。まさに石原の独壇場だ」
石原が衆議院議員に当選することを疑う者はいない。だが、首相指名を得られるだけの支持を集められるか、安定した政党を築けるかは疑問だとの見方も多い。
石原が志を共にする政治家は自民党保守派の生き残りで、つまり小泉改革の抵抗勢力だ。さらに、官僚や同僚の政治家を厳しく非難する石原では、大勢の意見をまとめられないだろう。「石原ほどの人気があれば、大統領になれるかもしれないが、日本は大統領制ではない」と、コロンビア大学のカーティスは言う。

イエスでもノーでもなく

69歳の石原にとって、首相への挑戦は時間との戦いでもある。小泉は2004年まで総選挙を行う必要はない。そのころには、石原は都知事2期目に入り、政界からの引退を考えるようになっているかもしれない。だが小泉に不運が重なれば、政権は夏には崩壊し、総選挙が行われるとの推測もある。
それでも日本が「巨大な変化か天変地異」に見舞われないかぎり、石原は首相に名乗りを上げないだろうと、彼の親しい友人の一人は言う。「彼は今、自分の裁量で面白い仕事ができる立場にいる」文芸評論家の松本健一は、石原を長編政治ドラマの主人公のような存在と位置づける。「彼は政治家でありながら、非政治的な魅力を多くもっている。作家で、今は亡き国民的スターの兄であり、大衆の求めるものを読み取り、わかりやすく話す力もある。これらすべてが政治家としての彼の力を増大させている」と、松本は言う。
もっとも、石原に首相をめざす気があるかはわからない。今のところは答えをはぐらかしてばかりだ。先月の毎日新聞の質問には、「ケ・セラ・セラだ」と答えた。
石原の長男である石原伸晃行政改革担当大臣は、父親の出馬をめぐる噂に辟易しているようだ。「毎年夏になると噂になる幽霊みたいなものだ。家族は迷惑している」と語ったといわれている。
次の「怪談話」は、日本の政界を震撼させるかもしれない。ただし、実際にはただの「お話」で終わる可能性もある。


カリスマを望む不確かな空気
石原の支持者は右寄りの保守層だけではない
     エイミー・ウェブ・佐伯直美(東京)

東京に住む小林知子(30)は、典型的な現代女性だ。いずれ子供をもちたいと思っているが、今は夫と2人暮らし。会社帰りに飲みに行ったり、週末にカラオケに出かけたりもする。
同年代の日本の女性と違うところがあるとすれば、政治への関心が高く、東京都の石原慎太郎知事を支持している点かもしれない。ただしそれも、最近の日本では珍しいことでなくなりつつある。
「働く女性のために託児所を増やすとか、石原さんは現実に起きている問題を解決しようとしてくれる」と、小林は言う。「考えが見えない政治家が多いなかで、国民にわかる言葉で伝えようとするところに好感がもてる」
石原の支持者といえば、かつては彼の保守的な主張に共鳴する中年以上の世代が大半だった。だが出口の見えない不況が続き、政治家のスキャンダルが相次ぐなか、その人気はこれまでと異なる有権者層にも広がりはじめている。アジアの近隣諸国には、そうした変化を「ナショナリズムの台頭」ととらえる向きも少なくない。
「国民の間で失業への不安が高まり、政府への信頼も揺らいでいる状況では、石原のような人物に関心が集まりやすい」と、英ラフバラ大学の日本専門家イアン・ヘンリーは言う。「世界の人々にとっても気になる人物だ」石原の主張に耳を傾ける国民が増えた背景には、小泉政権への失望がある。「小泉さんは、言うことはでかいけど実行できない」と、21歳の男子大学生は言う。「石原さんを全面的に支持するのは怖いけど、人気があって強権的な人でないと改革はできないと思う」

さらなる右傾化の表れ?

世論調査で石原が首相にふさわしいと答えた有権者は、2000年10月の調査では12.6%だったが、先週の調査では小泉純一郎首相(19%)を上回る27.2%に達した。都民を対象にした4月の調査では、64%が知事を続けてほしいと答えたが、首相をめざしてほしいと考えている人も18%いた。
多くの有権者は、小泉政権が自民党の「密室政治」を打破しきれないことに不満をつのらせている。「石原さんは裏でこそこそ動かない。彼の考えが好きか嫌いかは別にして、はっきり言ってくれるところがいいと思う」と、プログラマーの玉井幹32)は言う。
もっとも、はっきりしたもの言いのせいで石原は何度も物議をかもしてきた。かつては『「NO(ノー)」と言える日本』でアメリカを糾弾して論争を起こし、都知事になってからは「三国人発言」で在日外国人を蔑視していると批判された。
石原のもの言いにとくに心穏やかでないのは、アジアの国々だろう。石原は小泉首相の靖国神社参拝を支持すると明言し、自らも都知事として公式参拝した。中国のチベット政策を厳しく批判する一方、台湾を「独立国家」として認めるかのような発言をした。
「韓国や中国は日本が年々、右傾化しているとみている」と、コリア・レポートの辺真一(ピョン・ジンイル)編集長は言う。「小泉の次に石原が出てくれば、ますます右傾化すると考えるだろう。有事関連法案も、そのためのお膳立てのように映る」


国益重視の首相を待望

しかし、石原の人気をイデオロギー的な側面だけで定義するのはむずかしい。「左翼はアメリカにはっきりものを言う点で石原を支持し、右翼は中国にはっきりものを言う点で支持している」と、評論家の宮崎哲弥は言う。
日本人は政官界の腐敗に辟易していると、モントレー国際大学東アジア研究所の赤羽恒雄所長は言う。「こうした環境では、ナショナリストだけでなく社会全般の保守層に石原はアピールする」保守系の月刊誌「正論」では5〜6年前から、30代の女性や高校生、主婦など新たな層の読者が増えた。石原が対談などに登場した号の売り上げは悪くないという。「石原さんは、崇高な話をしながら身近な問題を取り上げる。いつも作業服だし、それだけの心構えがあると都民に伝わるのだろう」と、大島信三編集長は言う。
5月、石原の公認サイトを開設した小林元喜(23)は、高校生のときに石原の議員辞職表明演説を聞いて「この人はすごい」と思った。「石原さんの本は、生とか死がテーマとしてよく出てくる。そうしたもののとらえ方や『自分は自分でしかない』という考え方に魅力を感じた」と、小林は言う。
石原の手腕を評価し、期待しているのは東京の有権者だけではない。「5年前は今ほど日本が地に落ちた感じはなかったから、誰が首相でも大丈夫だろうと思っていた」と、千葉県に住む学習塾講師の武村浩靖(30)は言う。「でも国債の格付けが落とされたりしている今は、国益を重視する強いリーダーに首相になってほしい」ただ、そうした強さに逆に不安を感じる人もいる。「面白い人だけど、政治家とし
て欠けている部分があると思う」と兵庫県の大学生、岡田賢一(20)は言う。「排ガスをきれいにする装置をディーゼル車につけるというアイデアはいいけど、現実の費用の問題とかは考えていない気がする」



「ニューズウィーク日本版」02/06/19

「戦争してでも取り戻す」
石原慎太郎知事に北朝鮮拉致疑惑を聞く
      ジョージ・ウェアフリッツ・高山秀子

歯に衣着せぬ発言で人気を集める石原慎太郎・東京都知事は、国会議員時代から何度も首相候補に取りざたされてきた。小泉政権の人気急落で再び首相候補として脚光を浴びる石原に、本誌ジョージ・ウェアフリッツと高山秀子が話を聞いた。
――最近の報道では、あなたが自民党の代議士たちと食事をしたとか、小泉政権に批判的だとか、ポスト小泉をねらっているといわれているが。
いろいろな人が国政に戻る意思はあるかと尋ねるので、はぐらかしているだけだ。どう推測されようがかまわない。自分の人生の選択は自分で決める。
――次期首相になりたいという考えはあるか。
それはわからない。最初に国会議員になったときは総理大臣にならんとしたが、自民党は成長しきれず、評価もされていなかった。自分の人生にとっては物足りないものだった。
東京は日本の心臓部であり、東京を再生することが日本を再生させることにつながると思った。3年ほど知事として仕事をし評価もされ期待が集まっているのもわかる。しかし、それが近い将来の総理大臣につながると簡単には言えないと思う。
――小泉首相のこの1年をどう評価するか。
まあまあですね。小泉内閣は大きなスローガンを掲げたが、政治は小さくて具体的な例を実現することで出来上がってくるものだ。構造改革、構造改革と言うが、もっと具体的な案を示さないと、スローガンだけの期待はずれになる可能性がある。
――中国や韓国にはあなたに批判的な向きもあるが、周辺諸国との関係をどう考えるか。
彼らが私に対して批判的なのは、私が彼らに対して批判的だからだ。私の批判というのは、日本の80%から90%の人々が共感してくれていると思う。歴史一つ取っても私は冷静なことを言っているのだが、彼らにとっては批判をその
まま受け入れる政治体制のほうが操りやすいでしょう。私はそれを好まないし、日本人も好んではいないだろう。
――中国や韓国は日本政府をどう操ってきたか。
過去の日本の歴史に対する評価を、彼らの言うとおりに受け入れた総理大臣はたくさんいた。たとえば日本が中国に対して行っているODA(政府開発援助)は、正確に言えばODAではない。過去の歴史に対する償いでしかない。
中国は水爆を造っていて、有人宇宙船を打ち上げようとしている国だ。そんな国に日本人の税金を拠出する必要はない。
――あなたが首相になったら対中ODAは打ち切るか。
もちろん。
――最近の中国の台頭は周辺諸国に脅威を与えているか。
中国の今の経済状況には限界があると思う。かつての日本にも、アメリカとの間で同じような現象があった。当時は日本の安い労働力がアメリカを脅かした。それは新しい経済圏が台頭してくると起きる現象だ。
日本は、彼らより優れた部分の開発をしていけばいい。別に恐れることはない。ただ大事なことは、他人のアイデアを盗んでただで使う中国の癖、知的所有権認識の欠如に気をつけなければならない。
――軍事力はどうか。
軍事力を背景にした彼らの拡張主義はアジアの安全、安定、平和のために好ましくない傾向だと思う。アメリカがアジアに対する責任をきちんと明示して、場合によっては行動で示せば、中国の軍事拡大を大陸に封鎖することはできると思う。
――米軍基地の縮小や自衛隊を「普通」の軍隊にするといった、あなたのこれまでの主張とは異なるように思えるが。
日本は自分の力で領海水域を守り、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)や中国の領海侵犯を防がねばならない。そのためには船対船、船対空のミサイル搭載のフリート艦をもてばいい。
その作戦行動は日本の責任でやればいい。それがエスカレートしたときは、アメリカと共同戦線を張ることだ。中国の軍事拡張主義が続くかぎり、それを想定して装備を変えていく必要がある。
――日本は、ブッシュ政権が推進する米本土ミサイル防衛(NMD)構想に加わるべきか。
そう思う。
――最近、自由党の小沢一郎党首が日本も核兵器を開発するべきだと発言したと伝えられるが。
彼が言ったのは「もつべきだ」ではなく、もし必要であればすぐにもてると言ったのだ。私もこの点でよく誤解される。
しかし私は、所有してもあまり効果はないと思う。それをひっくり返せばエースになるような「カード」としてもっていたほうがいい。日本とアメリカの安全保障関係が続くかぎり、核兵器はもつ必要がない。
――都知事としての経験から、日本の金融問題をどうみるか。
私は、つぶす銀行はつぶしてもいいと思う。しかし役人の虚栄心でそれを止めようとするからますます傷が深くなる。
日本経済を立て直す方法はいくらでもある。日本のもっている力の一つは、外国から金を借りていないこと。逆にアメリカの国債はたくさん買っている。これを売りたいと言ったら問題になる。それを担保にファンドをつくって事業をやればいい。
――堅固な日米関係と中国の間で、再び冷戦構造が生じる可能性はあるか。
それは、アフガニスタンの戦争で彼らが何を認識したかということだ。核兵器や宇宙戦争は別として、通常兵器を使った地上戦ではアメリカにかなわないということを彼らは思い知った。中国にこれからどういう変化が起きるかはわからないが、冒険主義がいかに危険かを今度のアフガン戦争で知ったと思う。
――経済に活力を吹き込むために移民を受け入れることに関しては?
大賛成だ。アジアの人々を、秩序ある移民政策のもとで正式に受け入れるべきだ。
――北朝鮮に拉致された日本人がいるが、あなたが首相だったらどうするか。
昔、『風とライオン』という映画があった。(モロッコのリフ族に)拉致されたアメリカ人教師を(セオドア・)ルーズベルト米大統領が軍艦を送って取り戻したという内容だった。
この映画は、国家の国民に対する責任を示している。私が総理だったら、北朝鮮と戦争してでも取り戻す。アメリカがそれに協力してくれないとしたら、安保条約は意味がなくなる。




                                           

 
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