韓国に“配慮”にじむ教科書検定
李氏朝鮮→朝鮮/任那に拠点→勢力のばす
文科省、事実上要求受け入れ

文部科学省は九日、平成十五年度使用開始の高校教科書の検定結果を発表した。外交問題化した昨年の教科書問題の影響からか、対朝鮮半島史で異例の厳しい検定を実施。韓国が昨年行った中学歴史教科書への修正要求が、高校の検定で受け入れられた形だ。また、新しい高校学習指導要領に対応した初めての教科書として、小中学校同様に学習内容の「厳選」の視点から厳格な検定が行われ、理科などで不合格となるケースも出た。
日本史Bの検定では、「李氏朝鮮」に「表記が適切でない」と意見が付き、「朝鮮」とするなどの修正が行われた。
昨年五月に中学教科書をめぐり、韓国が検定後の修正を要求した中で、「李氏朝鮮」を「植民地時代に使用された不適切な用語」と指摘。文部科学省は「明白な誤りとはいえず、訂正を求めることはできない」と修正を拒否していた。
今回、一転して「李氏朝鮮」の表記を不適切としたことについて、文部科学省は「李氏朝鮮というのは通称であり、高校段階では本来の『朝鮮』とするのが適切」としている。
また、四世紀後半、日本が「(任那=半島南部に)拠点をおいたと考えられる」との記述に「誤解するおそれがある」と意見が付き、「勢力をのばしたと考えられる」と修正された。昨年の修正要求で韓国側は四世紀後半に日本が朝鮮半島南部に影響力を持っていたとする記述に、「軍事的征服による支配機構としての『任那日本府』は虚構」と強く反発していた。
文部科学省は、これらの検定について「『明らかな誤り』以外は修正できない検定後の場合と違い、検定段階ではより適切な記述を求めるのは当然」と説明している。
一方で、論議が分かれている「南京事件」について、犠牲者が四十万人とする日本史教科書の記述は、検定意見が付かないまま通過。朝鮮半島関係の記述に神経をとがらせる検定姿勢とは際立った対照を見せている。
今回の検定では、昭和六十一年の教科書検定で中韓の抗議を受け、旧文部省が合格後の書き換えを四回にわたって行わせた「新編日本史」の後継本である明成社の日本史Bも合格した。


教科書審議会に朝鮮史学者、韓国シフト色濃く
消えた「李氏朝鮮」 「中学」合格の記述、削除

 昨年の中学歴史教科書への修正要求など、継続する韓国からの内政干渉や、サッカーワールドカップ(W杯)の共同開催といった政治状況を反映するかのように、朝鮮半島関係で韓国側の主張に沿った修正が行われた今回の高校教科書検定。背景には、検定結果を決める教科用図書検定調査審議会の委員に朝鮮史学者を加えるという文部科学省の“韓国シフト”があった。(教科書問題取材班)

今回の高校教科書検定で行われた朝鮮半島関係の主な修正は、表の通り。

古代に朝鮮半島南部の任那(みまな)や加羅(から)と呼ばれる地域に日本が何らかの拠点を置いていたとする説は広く主張されており、昨年の中学教科書検定で扶桑社の「大和朝廷は、半島南部の任那(加羅)という地に拠点を築いたと考えられる」とする記述が検定をパスし、今春から学校現場で使われている。
韓国政府は扶桑社など七社の任那関係の記述を修正するよう要求してきたが、日本政府は「学説状況に照らして、明白な誤りとはいえない」として要求をはねつけた。
ところが今回の高校の検定では「当時の朝鮮半島と日本の関係についての学説状況に照らして、誤解するおそれのある表現である」との検定意見がつき、「根拠地」を削除させられた。
日本人にはなじみが深く、やはり中学教科書に対する修正要求を拒否した「李氏朝鮮」も、「表記が適切でない」との理由で書き換えられた。
文部科学省は昨年の教科書騒動がほぼおさまった十月十九日付で、朝鮮史が専門の宮嶋博史・東大東洋文化研究所教授を教科用図書検定調査審議会の委員に加えた。
文科省の大槻達也教科書課長は「朝鮮史学者が入ったことで、きめ細かい検定ができた」と、委員人事が今回の検定に影響を与えたことを否定しない。
宮嶋は大阪市出身、京大大学院博士課程修了。朝鮮社会経済史が専門で、在日韓国・朝鮮人についても発言している。「日韓の歴史学者が意見交換と交流を目指す」とする「日韓歴史家会議」の運営委員でもある。
主著は「世界の歴史12 明清と李朝の時代」「両班(ヤンバン)−李朝社会の特権階層」で、なぜか、今回の検定で「李氏朝鮮」とともに削除された「李朝」が書名に入っている。
複数の日本史学者は「宮嶋が所属する朝鮮史学会は歴史学会の中でも特異な存在。どうしても韓国や北朝鮮に甘くなりがちだ。なぜ教科書検定審に入れるのか」と首をかしげる。
委員として扶桑社教科書の検定不合格工作を行った元インド大使、野田英二郎のように、特定の国の利益代表にならないか心配する声もある。
扶桑社教科書の執筆者でもある高森明勅国学院大講師は「昨年まで検定を通ってきた『加羅を根拠地として』という記述が修正させられるなどの今回の検定は、韓国のナショナリズムに迎合したものではないか」と話している。


「白表紙本」など漏洩 共産系グループに
明成社「日本史B」

昭和六十一年の教科書検定で中韓両国から抗議を受けた「新編日本史」の後継本、明成社の日本史B教科書の白表紙本(検定申請図書)や文部科学省の検定意見、修正内容が、発表前に漏れていたことが九日分かった。
共産党系団体などでつくる「子どもと教科書全国ネット21」が同日、記者会見し、漏洩(ろうえい)した検定資料をもとに検討した結果として、明成社の教科書を「天皇中心」「侵略戦争を正当化」などと非難した。
未公表の資料をどうやって入手したのかという質問に対し、俵義文事務局長は「企業秘密だ」とした。文部科学省も明成社も「外部に出していない」としている。
白表紙本をめぐっては過去にも、「新編日本史」や扶桑社の中学校歴史教科書のものが検定合格発表前に報道、販売されるなどの問題があった。


教科書検定 不適切な表現次々通過
残った「従軍慰安婦」「40万人虐殺」も登場

九日発表された高校教科書の検定結果では、中学歴史教科書からは姿を消した「従軍慰安婦」の表記が幅をきかせている上、「性奴隷」「彼女たちを辱め」といった描写がフリーパス。南京事件の犠牲者数として、中国政府の主張をも上回る四十万人という数字など、不適切な記述や明らかなミスが次々通過した。また、日本の伝統的な男女観、家族観を否定するなど、検定制度への国民の信頼を大きく揺るがす結果となっている。

≪慰安婦≫
教科書に慰安婦を記述することへの批判が高まったことを受け、昨年検定に合格した中学歴史教科書では、慰安婦や慰安施設に触れているのは八社中三社に減少。当時使われていなかった「従軍慰安婦」という呼び方はなくなった。
しかし今回の高校教科書検定では、政治・経済で全社、日本史で明成社を除く全社が記述。「多数の女性が強制的に連行された」(第一学習社・政治・経済)、「むりやり従軍慰安婦とされた女性もぼう大な数にのぼる」(実教出版・世界史A)などと強制連行説に立つものが多い。
さらに、「性の相手をさせられた」(三省堂・現代社会)、「性行為をしいられた」(数研出版・政治・経済)といった直接的な表現のほか、「日本軍将校・兵士は、彼女たちを辱め、耐え難い苦痛を与えた」(第一学習社・政治・経済)と日本将兵をおとしめたり、韓国側の主張として「性奴隷」(一橋出版・現代社会)との表現もある。

≪南京事件≫
南京攻略をめぐっては、戦闘による死者が数万単位あっても、民間人に対する組織的虐殺はなかったことを示す説が多数発表されているが、山川出版社・日本史Bに「多数の中国人一般住民(婦女子をふくむ)および捕虜を殺害」「犠牲者数については、数万人〜40万人に及ぶ説がある」という記述が登場した。
秦郁彦日大教授は「日本の『大虐殺派』の学者の上限が『二十万人以上』、中国政府でさえ『三十万人』なのに…」。戦後の歴史教科書をすべて調べている研究家、上杉千年氏も「日本史教科書に『四十万人』が登場したのは初めてだ」と憤る。

≪「侵略」≫
先の大戦での日本の行為は「侵略」のオンパレード。「戦時中、中国・朝鮮・東南アジアなど日本が侵略した地域」(第一学習社・現代社会)と、朝鮮統治を侵略とする教科書もある。
一方で、ソ連による満州、千島、南樺太などへの侵攻はほとんどが「参戦」「進撃」「制圧、占領」「軍をすすめた」。朝鮮戦争での北朝鮮の侵攻は「進軍」(東京書籍・世界史B)などと二重基準だ。
「韓国併合や侵略戦争を正当化しようとする閣僚などの発言も続いている」(実教出版・日本史A)と、歴史認識をめぐる政治家の発言を外国の立場から断罪する記述もパスした。

≪自衛隊≫
自衛隊をめぐり、今では極めて少数派となった違憲説を強調する教科書も多い。「政府は、国には自衛権があるとして、自衛隊を合憲化してきた」(第一学習社・現代社会)と、本来は憲法違反だがむりやり合憲にしているととれる表現も。この教科書には、自衛隊について「国民一人ひとりによる監視も必要である」とする記述も出てくる。

≪男女観≫
「男らしさ」「女らしさ」は社会的・文化的につくられたもの(ジェンダー)だとして否定的に記述しているものが多い。
「大和撫子(なでしこ)」「たおやめ」「ますらお」という言葉を挙げて批判したり(教育出版・現代社会)、「夫のなかには伝統的な良妻賢母観にこだわる人がまだ多いが」(実教出版・家庭基礎)と、日本の伝統的男女観を否定している。
家庭科は各社とも家族の多様化を記述。「今や同性愛のカップルでも家族といえない理由はない」(教育図書・家庭基礎、家庭総合)との表現も登場した。


禍根残す主体性なき検定【歴史教科書】

来春から使われる高校教科書の検定が終わった。日本と朝鮮半島の関係史について行われた厳しい検定は事実上、昨夏の韓国の再修正要求を大幅に受け入れたものである。原則自由な記述を認めつつ、学習指導要領などに沿ってチェックするという日本の検定制度の趣旨にも反し、今後の教科書検定に禍根を残したといえる。
特に、問題があると思われるのは、「李氏朝鮮」という表記に「適切ではない」と意見をつけたことだ。李氏朝鮮は十四世紀末、李成桂が高麗を倒して建てた王朝のことである。不適切とした理由を文部科学省は「韓国では使われず、日本の朝鮮史学会でも使われなくなった」と説明している。
しかし、日本史学会では今も一般的な用語として使われ、多くの辞典や教科書にも載っている。紀元前二世紀の「衛氏朝鮮」などと区別する意味もある。何よりも、韓国でなく日本の子供たちが使う教科書ではないか。「李氏朝鮮」をなぜ、今、あえて書き直す必要があるのか、理解に苦しむ。
四世紀後半の「任那日本府」説に基づく記述にも検定意見がついた。任那日本府はなかった−とする韓国側の主張に沿ったものだ。しかし、そのことが完全に証明されたわけではない。現時点では、「任那日本府」説も許容されるべき記述であろう。
全体として、対朝鮮半島史については、検定のストライクゾーンが極端に狭められ、異論を排した検定が行われたようだ。今後の朝鮮史の研究が、いびつになりかねない懸念すらある。
昨年四月に発表された中学歴史教科書の検定では、自虐史観に異を唱える扶桑社教科書の新規参入もあって、多様な記述が登場した。その後、韓国が三十五項目、中国が八項目の再修正要求をしてきたが、文部科学省は韓国が求める二項目のみを明白な誤りの指摘として受け入れるにとどめ、「李氏朝鮮」の書き換え要求などを突っぱねた。今回の検定姿勢は、当時の対応とあまりにも違い過ぎる。
その一方で、今では不適切とされる「従軍慰安婦」という表記が相も変わらず乱用され、荒唐無稽な“南京大虐殺四十万人”説まで検定をパスしているのは、どういうわけか。国民の納得のいく説明がほしい。






                                      
 
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