常若の祈り、中今のつとめ

   民族派青年有志「神宮参拝禊研修の集い」開会にあたりて
 

             本渡諏訪神社 宮司 大 野 康 孝

                       【平成18年度 挨拶要綱】

 

 孝明天皇御製 戈とりて守れ宮人九重の みはしの桜風そよぐなり

        いざこども馬に鞍おけ九重の みはしの桜ちらぬそのまに 宮部鼎蔵

 

本年の干支は丙戌。この年を占うべく大漢和辞典を繙けば、丙の歳は運気強く、余りて内乱の気生じ外敵侵略の災禍あるやの年とか。次いで戌の字は、「人が戈を持ち立つところの防人の姿の象形文字」で、十二支の動物になぞらえるならば嗅覚耳眼優れたる忠実勇猛なる犬を意味し、「誠」とも「美しい」とも読むとの事です。

 まさに、神国日本の命運と我らが使命如何に重大なる年であり、この事を示唆し警鐘する年廻りであるかと、各位にはすでに確固と思いあたられている事と存じます。  

 冒頭に孝明天皇の御製と、この切なる大御心に答え奉るとの尊攘の志士、肥後敬神党の宮部鼎蔵先生の返歌を掲げました本意をこゝにお察し戴き、この神都伊勢にて一両日開催の『神宮参拝禊研修の集い』趣旨をしっかりと肝に銘じて戴きたいと思います。

ところで現在、世界百九十六ケ国中に君主国が二十九ケ国在り、その内の二十六ケ国は人口五千万以下の国家であるそうです。それでは、その人口五千万を超す三大国家とは。

一つはヨーロッパの女王陛下の国イギリスです。国教はキリスト教。十世紀から続く王朝は、実は現在までに九回も変遷しており、その人口は現在六千万人を切ります。

もう一方の君主国は、つい先日、天皇陛下が国王のご在位六十年奉祝式典に出席の為に訪われたアジアの友好国タイであり、熱心な仏教国です。その王朝は十三世紀からの七百年余の歴史中にやはり四回変わっており、人口はわずかに六千万人を上回るそうです。

 その二カ国の人口を合わせても、一億二千万余を擁する我が国には及びません。

初代神武天皇ご即位以来、皇紀二千六百六十六年。日本は世界最大最長の、しかも神代の昔より万世一系の天皇を仰ぎ来る「最も古い歴史と伝統を誇る世界に冠たる君主国」であり、皇室は世界中で最も安定した統合力と求心力に富む高貴なる家柄なのです。

しかし私たちは、世界に類無きこの君民一体の国柄の有り難さを特別な事と尊びながらも断々固と守り伝えゆくべく、祖国日本の誇りと道義の恢復の為に言挙げすべき努力を事欠いて来たことを、この際、深く反省しなければなりません。

秋篠宮妃殿下の御懐妊という天佑神助により、まさに間一髪の時を得て、今回の拙速にして意図的に皇統を絶やさんとするが如きの、皇位継承に関する保革野合の亡国の論議は一応は排除されたのですが、実に由々しき深刻なる危機でした。

一刻も早き憲法と皇室典範の本来あるべき姿への改正をと、熱望して止まぬ次第です。

さて、本年もまた全国より民族派の青年有志がこの伊勢の聖地に参集して、皇民吾れと払暁の清流五十鈴川に身魂を禊祓って清らなる真性を回復し、特別に許されて皇大神宮の御垣内深く正式参拝を奉修。次いで内宮神楽殿に太々神楽を捧げまつり、更には神宮域内の別宮諸管社を巡拝して、維新回天への祈りを共に一心に捧げ奉る運びとなりました。

 

明治天皇御製 国民もつねにこころをあらはなむ みもすそ川の清きながれに

        朝夕に神の御前にみそぎして すめらが御代に仕えまつらむ 川面凡児

 

謹みて天照皇大神の大御前を拝し、勤皇まことむすびの責務邁進を祈り誓うのです。

では、かくなる我々のこの禊祓いの祈行の本源は何処に典拠するのか、この志業に際して是非とも、『古事記上巻』を精読の上でのご参加をと、同志諸兄にご案内申しあげましたが、今一度、深く神話に学びその意を確固と胸に刻んで頂きたく、切に念じての事でした。

この後に、古事記上巻を講読しつゝ禊の神業と和歌の修礼をいたしますが、我々の禊の眼目はと申しますと、たゞ自己一身の罪穢れの祓除のみならず、神ながらなる皇民吾れの確固たる青年維新者として自我を確立し、かくして如何なるものにも穢されぬ揺るぎなき断々固たる神武の剣魂を奉戴して、維新の大道に生死する事にあるのです。

伊邪那岐神が黄泉国より往還され、橘小戸阿波岐原にて禊祓給いしその時にも、決してお放しにならなかった十拳剣の霊理をしかと仰ぎ鑑なければなりません。

禊祓いこそ剣魂の発揚であるのです。ここに伊邪那岐伊邪那美妹背二柱大神の御神業、国生み神産みの修理固成の神勅が極まり完結され、皇祖天照大神以下の最高最貴の三神がみ生れ給い、かくして高天原の御事が始まった事は記紀に語られしその通りです。

この様に示し申せば、剣魂の発揚である禊は修理固成の神勅達成に至る、必然にして究極の道筋であり、その大眼目は皇室国家日本の源基大本にあることが理解できます。

各位には、天津祝詞すなわち祓詞を奉唱する事によって、此処に至る古事記の概略大意をつぶさに我が信念信仰として、明朝払暁の五十鈴川での禊行に臨んで戴きたく存じます。 

そうして我々の禊は、国の汚濁を禊ぎ祓う破邪顕正の青年の大禊なのだと猛省自覚し、伊勢神宮の大御前に八紘一宇世界平和の大理想に根ざす誓願を立てたく存じます。

本日この開会に先立って半数近くの方々と外宮ならびに各別宮を先拝し、只今の殿舎と各々隣接する御敷地とを目前に拝観して、来る平成二十五年度斎行の第六十二回神宮式年遷宮の御義の一端を伺うにあたり『常若と中今』の思想を学びました。

式年遷宮はただ単に神殿新築と引越しの祭りではありません。二十年を一区切りに一巡して神々もまた新たなる生命を甦らせ給う、修理固成の岩戸開きの大御祭なのです。

その目的は、天照大神の大御命を常に若々しく保って戴き、この神国日本もまた神々の稜威の更新により、物心共に甦って健全ならしめる深い祈りに淵源するのです。

大いなる神々の悠久の生命の連続「常若の祈り」に徹する、過去現在未来の真只中の今に生きる我が民族の叡智であり、この「中今のつとめ」は禊祓いの心に始まるのです。

剣魂の発揚である禊祓いは、天祖二柱の大神が天の沼矛を持って行ぜられし修理固成の大神業に連なる究極の祈行であり、その眼目は決して汚されることなき神国日本の大本を樹ち立てる必然の道筋であったのだと確信して、志道恢復の為に邁進せねばなりません。

孝明天皇の「戈とりて…」の御製の大意をあらためて深く拝承、先覚烈士の必死懸命の祈行と勇武の業績とを仰ぎつゝ、今こそ禊の心はこれ新なる永遠の日本の生命の甦りとぞ大いなる剣魂を振起して『常若の祈り、中今のつとめ』に徹しようではありませんか。

                          (熊本県 本渡諏訪神社 宮司)     

 

 

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