平成18年/07/03

陸自“戦地派遣”本格化へ苦肉の策
中央即応集団に『軍民協力部門』

 イラクからの撤収を開始した陸上自衛隊。二年半に及ぶ“戦地派遣”の経験から、来年三月に新規編成される海外派遣担当の
中央即応集団の中にCIMIC(シミック)=Civil Military Co−operation=と呼ばれる軍民協力部門を新設することが分かった。
米軍再編でも示された日米による「国際安全保障環境の改善」を旗印に、自衛隊の海外活動は名実ともに本格化する。 
 一九九二年の国連平和維持活動(PKO)参加から始まった陸自の海外活動。
当初は、隊員自らが道路や橋を復旧した。しかし、二〇〇二年からの東ティモールPKOでは隊員の活動に加え、
雇用した地元の人たちに重機を操作させる役務も取り入れた。
 
イラクでの施設復旧は百パーセント役務方式。旧日本陸軍が旧満州国(中国東北部)で行った植民地経営に近い。
渉外業務を行う業務支援隊の対外調整係長の下に建設担当など約十人の幹部からなるCIMICがある。
 彼らがムサンナ州の建設復興委員会と調整して復旧作業を決定、施設隊に作業を指示し
、施設隊はイラク人を雇用して作業を行わせる仕組みだ。
雇用されるイラク人は一日平均三千人に上る。
 
宿営地内のCIMIC会議は週二回あり、復興支援活動の中核となっている。だが、イラク駐留が始まったとき、
部隊はCIMICの存在さえ知らなかった。
 当時、ムサンナ州の治安維持を担当していたオランダ軍にCIMICがあり、地元の人々を雇用して復興事業を進めていた。
地元の人たちの雇用が治安維持につながるのをみて、陸自がまねたのだ。
 陸自幹部は「ムサンナ州の失業対策となって、治安好転に役立つ。
隊員による宿営地外での活動が減るので危険も回避できる」とCIMIC方式の利点を説明する。
 イラクでの教訓を踏まえて発足する中央即応集団にCIMICを置くのは自然な流れのようにみえる。
 
だが、危険な地域で活動するための苦肉の策であることは間違いない。
CIMICを持つことにより、今より気軽に海外派遣を命じる空気が生まれるかもしれない。
 イラクに駐留する二十八カ国の中で、復興支援活動を目的にしているのは自衛隊だけだ。
他国の軍隊は治安維持を任務に派遣されている。
それぞれが持つCIMICを通じて復興支援を行うのは円滑に任務を進めるための手段でしかない。
 自衛隊の場合、憲法上の制約から武力行使を伴う治安維持は行えない。
「できる活動」を探した結果が復興支援の分野だった。
今後の海外活動も施設復旧を柱にするなら相当に「異色の軍隊」(陸自幹部)になる。
 外務省の政府開発援助(ODA)のうち無償資金協力を担当する「国際協力機構(JICA)」の活動と競合する場面も
予想されるから、より危険な地域へと自衛隊が押し出される可能性は高い。
 
隊員たちはクウェートやイラクで、国内で行う訓練の何年分にも当たる実弾射撃訓練を行った。襲撃を想定して
マル秘の武器使用基準に基づく訓練も繰り返した。
だが、陸自幹部は「あくまで訓練にすぎない。実際に危険な場面に遭遇しなければ教訓は得られない」という。
 海外活動の開始から十四年。奇跡的に一人の死者も出していない陸上自衛隊は、さらに活動の難度を上げようとしている。

(メモ)中央即応集団 来年3月、東京都練馬区の陸上自衛隊朝霞駐屯地に新設される防衛庁長官直轄の部隊。
第一空挺(くうてい)団、特殊作戦群など長官直轄部隊を束ね、国際活動教育隊を新設。国際活動の研究、訓練を行う。
総数約3200人。


迎撃ミサイル 月内にも沖縄配備
米軍のみで発射判断


 米軍再編の最終報告を踏まえ、月内にも米国が在日米軍基地に配備する地上発射型迎撃ミサイル「PAC3」の運用について、
日米間の取り決めがなく、発射の決断は米側に委ねられていることが二日、分かった。
日本政府の了承なしに迎撃に踏み切れば、日本の主権が侵害されるだけでなく、PAC3が落下した場合には
二次災害の補償をめぐる問題も浮上する。
北朝鮮が「テポドン2号」の発射を準備する中、日米連携を強調した米軍再編は課題を置き去りにしたまま進んでいる。
 PAC3の在日米軍基地への配備と早期運用は、五月に日米が合意した米軍再編最終報告に示された。
北朝鮮が「テポドン2号」発射の兆候をみせたことから、米側は配備を急ぎ、
月内にも沖縄県の米空軍嘉手納基地に四個高射隊二十四基を配備する計画でいる。
 
「装備の重大な変更」に該当する場合は、日米安保条約に基づく日米の事前協議が必要だが、
日本政府は今回の配備に注文をつけない方向だ。
 PAC3による迎撃には、日本政府の要請や承認を必要とするのか、米軍の意思だけでよいのかなど、発射の要件をめぐる
日米間の取り決めが存在しない。
 航空自衛隊が来年三月から配備するPAC3については昨年、自衛隊法が改正され、「発射の兆候」を捕捉した時点で
首相の承認を得て迎撃することなどが規定された。
だが米軍を日本の国内法で縛るのは無理があり、当面は米軍の判断ひとつで発射できる状況だ。
 
PAC3は発射されると基地を大きく飛び出して弾道ミサイルを迎撃。外れた場合は自爆し、命中した場合でも
金属破片が地上に落下する。
米軍が「基地の自衛」を主張しても、迎撃が軍事行動であることは否定できない。
基地の外に影響が及び、日本の主権が侵害されるおそれがある。
防衛庁幹部は「米兵が基地の外に出てきて泥棒をつかまえるようなもの」と問題点を指摘する。
 湾岸戦争では、クウェート防衛のため米軍がイラクの弾道ミサイルに向けて発射したPAC2の破片が市街地に落下し、
被害が出たことが明らかになっている。
在日米軍のPAC3の破片が落下した場合も、同様の二次災害が起きる可能性があるが、補償について日米間の取り決めはない。
 事前協議なしに配備が先行する事態について、外務省日米安全保障条約課は「どのような条件の下で在日米軍が
PAC3を撃つのか、まさに日米で協議しているところで、早期に結論を得たい」と話している。

(メモ)地上発射型迎撃ミサイル「PAC3」 ミサイル防衛(MD)システムのひとつで、地上に落下する直前の
弾道ミサイルを迎撃する。
射程は約15キロ。米国で開発され、航空自衛隊が来年3月から配備する。





 
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