平成16年/12/29

永住外国人への地方参政権付与 慎重自民Vs積極公明 次期国会へ火ダネ

 国内に永住する外国人に、地方選挙権などを与える「永住外国人地方参政権付与法
案」の今後の取り扱いをめぐり、慎重派の自民、推進派の公明両党が頭を悩ませてい
る。臨時国会では継続審議として“先送り”したが、次期通常国会で審議を再開すれ
ば、採決が現実の政治日程に上がってくる。法案の賛否をめぐって自公連立に大きな
亀裂が生じる可能性があるほか、法案自体の問題点を指摘する意見もあり、先行きは不透明だ。
 「一日も早い採決が望まれる。もう採決するときだ」
 公明党の冬柴鉄三幹事長は十一月、臨時国会の衆院政治倫理・公選法改正特別委員
会(倫選特委)で法案の趣旨説明をした際、こう強調した。
 法案は平成十一年十月に自民、公明、自由の三党が結んだ「連立政権合意」に「成
立させる」と明記。そのうえ、過去に何度も提出されては廃案になった経緯もあり、
神崎武法代表も、「審議は(すでに)やり尽くした」と表明、のらりくらりした自民
党の対応にしびれを切らしている。

自民党内には「(参政権は国民固有の権利であり)憲法違反との考え方が多数だ」
(安倍晋三幹事長代理)など法案成立への反対が根強い。現執行部でも、与謝野馨政
調会長は明確に反対しており、久間章生総務会長は慎重姿勢をとっている。
 このため、公明党は自民党に「党議拘束を外した上での採決」(神崎氏)も提案し
ているが、それでも法案が否決されれば連立関係がきしむことは確実だ。連立合意の
事実もあり、「公党間の約束をほごにする事態」(公明党幹部)となるからだ。
 ただ、公明党も、連立関係に悪影響を与える事態は避けたいのが本音で、通常国会
での対応を決めかねている。自民党内に、公明党が慎重姿勢を崩していない教育基本
法改正案や国民投票法案などの早期提出の動きがあることから、一部には「参政権付
与法案をきちんと履行するなら、他の法案で協力してもいい」(公明党幹部)と
“バーター”を促す声も出ている。

「韓国籍」と「朝鮮籍」
 公明党が今年二月に提出した「永住外国人地方参政権付与法案」は、「韓国籍」の
人は対象としているが、「朝鮮籍」については事実上、除外している。
 同法案は、付則の中で「外国人登録原票の国籍の記載が国名によりされている者に
限る」との条件を設けている。これによって、国名ではない「朝鮮籍」の人は該当しないことになる。
 そもそも「朝鮮籍」とは何か。戦後、日本に残った朝鮮半島出身者は、もともと日
本国籍を有していたが、昭和二十二年の外国人登録令の施行で、全員が日本国籍のま
ま外国人とみなす「朝鮮籍」と記された。二十三年に韓国と北朝鮮が樹立されると、
二十五年以降、「韓国籍」を希望する人には国籍欄の変更が認められるようになった。

 つまり、在日朝鮮・韓国人には「韓国籍」と「朝鮮籍」はいても、「北朝鮮国籍」
はいないのが実態だ。産経新聞が十一月十六日付朝刊の記事中、「国交のない北朝鮮
国籍の永住外国人」としたのは誤りだった。
 「朝鮮籍」を事実上、除外している理由について公明党の冬柴鉄三幹事長は、「特
定の国(北朝鮮)の名前を挙げてこれを除外すると言いたくないので、こういう書き
方をした」(倫選特委での答弁)と説明する。
 しかし、朝鮮半島問題専門家によると、登録国籍を切り替えなかった「朝鮮籍」の
人には北朝鮮支持者も多いが、「中立または韓国寄りの人もいる」とされる。「朝鮮
籍」の除外は「差別につながりかねず合理的な根拠はない」(朝鮮半島問題専門家)
との厳しい見方もある。
 このため、さきの倫選特委では、「朝鮮籍」の人を除外しない法案を野党時代の公
明党と共同提案した民主党の議員が、「自民党に配慮した政治的妥協だ」と追及する一幕もあった。
 また、北朝鮮系の在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)は、「同胞の(日本への)同
化を促進する反民族的行為だ」と法案に反対する一方、韓国系の在日本大韓民国民団
は賛成の立場をとるなど状況は複雑だ。
 
【地方参政権付与法案が認める主な権限】
 ・地方議員、首長選挙での選挙権
 ・条例の制定・改廃請求権
 ・地方自治体の事務監査請求権
 ・議会解散請求権
 ・地方議員、首長、副知事、選管委員、監査委員、公安委員、教育委員らの解職請求権
 ・合併協議会設置の請求権




 
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